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福岡高等裁判所 昭和40年(ネ)541号 判決 1966年4月26日

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用(差戻における上告費用も含む)は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決を取消す。被控訴人は控訴人に対し福岡県筑紫郡筑紫野町針摺字山伏ケ浦五七一番地の一、山林一町二反六畝歩の土地上にある木造瓦葺平家建住家一棟建坪一五坪を収去の上、該土地を明渡せ。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする」との判決並びに保証を条件とする仮執行宣言を求め被控訴人および補助参加人は主文第一、二項同旨の判決を求めた。……。

理由

一、福岡県筑紫郡筑紫野町針摺字山伏ケ浦五七一番地の一、山林一町二反六畝歩(以下本件土地という)は昭和二四年八月一日自作農創設特別措置法(以下自創法という)第四一条により政府が訴外足立知信に売り渡したものであること、右訴外人が昭和二九年一〇月四日訴外岩田良一に本件土地を贈与し、(贈与が有効なりや否やは措らくおく)同日その旨所有権移転登記がなされたこと、控訴人が福岡地方裁判所昭和三三年(ケ)第五三号不動産競売事件において、昭和三五年三月四日競落許可決定を受け、当時右決定が確定し控訴人名義に所有権移転登記がなされたことは、いづれも当事者間争がない。

二、<証拠>を綜合すれば、次の事実が認められる。

すなわち、本件土地は昭和二二年一〇月二日政府が自創法第三〇条に基いて買収し、昭和二四年八月一日前記の如く訴外足立知信に売り渡したものであるが、昭和三〇年八月三一日および昭和三一年五月一四日の両日政府機関の補助者たる福岡県主事が成功検査をなしたところ右第一回の検査の際は、ブルトーザーで本件土地の一部を開墾し、荒地の状態であり、右第二回の検査の際には本件土地の一部に栗苗を植栽したのみで、足立知信はすでに東京都に転出していたところから、政府は農地法施行法第一二条、農地法第七二条に基いて本件土地を買収することとし、政府機関として福岡県知事において、右訴外人に対し、買収の期日を昭和三二年一〇月一五日と指定した法の定める買収令書を、買収対価受領の場合と右受領拒否の場合の届出用紙と共に郵送し、同年七月一六日これを交付した。ところが右書類の交付を受けた足立知信は、即日右各書類を福岡県農地開拓課長宛に郵便で返送し、買収対価の受領を拒否したので、熊本県農地事務局長が農林大臣名を以て右訴外人を供託金還付請求権者とし、本件土地の対価金二、八〇八円を東京法務局渋谷出張所に供託したこと。そして政府は農地法施行法第一二条第七二条第四項、第五二条第一項により昭和三二年一〇月一五日本件土地の所有権を取得したものとして、農地法第六八条により、被控訴人に本件土地を一時無償で使用させたため、被控訴人において本件土地の一部に前記請求趣旨中記載の家屋を建築所有し、本件土地を耕作して農業を営んでいること。一方訴外足立知信は、これより先本件土地を農地法第一二条、農地法第七三条による農林大臣の許可を受けないで、昭和二九年一〇月四日訴外岩田良一に贈与し、即日同訴外人名義に所有権移転登記手続を経て、その頃岩田良一に引渡したところ、岩田良一が昭和三三年九月二二日訴外合資会社紫六商店に対し本件土地を抵当に供した。かくて同商店の抵当権実行により競売手続が実施され、前記の如く昭和三五年三月四日控訴人が本件土地を競落し、控訴人名義に所有権移転登記がなされるに至ったこと。

以上の事実が認められ、右認定に抵触する当審証人岩田良一の証言の一部は措信し難く他に右認定を覆えす証拠はない。

三、控訴人は、自創法第四一条で売り渡された土地を政府が農地法施行法第一二条、農地法第七二条により買収し得る期間は政府が売渡した日から起算し八年以内でなければならないところ本件においては前記の如く政府が本件土地を訴外足立知信に売渡したのが昭和二四年八月一日で、同土地を買収した日が買収令書に記載された昭和三二年一〇月一五日であり、その間八年以上経過しているので本件土地の買収は無効であると主張し、右八年の期間を売渡しの日から買収令書記載の「買収の日」までとするのに対し、補助参加人は、本件においては、本件土地売り渡しの日である昭和二四年八月一日より起算し、八年以内の昭和三二年七月一六日右訴外人に買収令書を交付しているので本件土地の買収は有効であると主張し、右八年の期間を売り渡しの日から買収令書の交付もしくは公示の日までと抗争するので、この点について判断する。農地法施行法第一二条の準用する農地法第七二条第一項は、自創法第四一条の規定により土地の売り渡しを受けた者が農地法第七二条第一項各号に該当した場合、国においてその土地を買収することができるが、ただ売り渡しの時期から起算し八年を経過したときはその土地を買収することができないと規定し、同条第二項において、第一項の規定による買収は都道府県知事が被買収者に対し第二項各号に掲げる事項を記載した買収令書を交付して行なうと規定している。そこで右第一項と第二項を対照し、かつ、同条第四項によって準用される同法第五二条を併せ考えると、農地法第七二条第一項の買収は買収処分を意味し、第二項第三号の買収の時期は、買収処分の効果たる所有権移転の時期および買収土地対価の支払、もしくは供託の時期を定めたものと解するを相当とする。そうすると右八年を経過したか否かは、売渡の日から買収令書の交付ないしは交付に代る公示の日までの期間によって定められるべきであるところ、本件においては、前記認定の如く本件土地売り渡しの日である昭和二四年八月一日より起算し八年以内の昭和三二年七月一六日に足立知信に買収令書を交付しているので本件土地の買収は有効であるといわねばならない。よって右見解に反する控訴人の主張は独自の見解であって、採用しない。

四、次に訴外足立知信と同岩田良一との間の本件土地贈与の効力ならびに岩田のした本件土地に対する抵当権設定行為の効力について判断する。

さきに認定した如く訴外足立知信は昭和二九年一〇月四日訴外岩田良一に本件土地を贈与し、同日その旨所有権移転登記を受け、その頃これを岩田に引渡したのであるが、控訴人は右贈与は国の買収期間が経過し、足立において、本件土地を自由に処分し得るようになった場合に本件土地の所有権を岩田に移転する旨の停止条件付贈与契約であった旨主張するけれども、前記の如く既に本件土地につき足立知信から岩田良一に所有権移転登記が経由され、かつ本件不動産が引渡されている以上特段の事情がない限り右贈与が前記停止条件付贈与契約であるとは解し得られないところ、成立に争のない甲第二号証の一、弁論の全趣旨により成立を認め得る同第二号証の二、当審証人岩田良一の証言を以ては右特段の事情を認め得る証拠となし得ないし、他にこれを認めるに足る証拠もないので、前記贈与は控訴人主張の如き停止条件付贈与契約ではないといわざるを得ない。ところで訴外足立知信が本件土地を訴外岩田良一に贈与した際、右贈与につき農地法施行法第一二条農地法第七三条による農林大臣の許可を受けていないことは当事者弁論の全趣旨に徴し明白であるから右贈与は無効である。

控訴人は仮に右贈与が無効であったとしても、足立知信において無効行為を追認していると主張するけれども、強行法規と解すべき前記農地法第七三条違反の無効行為を追認によって有効にすることはできないと解するので右主張は到底採用できない。

また控訴人は、本件土地について訴外岩田良一のした抵当権設定行為そのものは違法でないと主張するけれども、さきに認定した如く国が訴外足立知信から適法に本件土地を買収し、昭和三二年一〇月一五日本件土地は国の所有に帰したのであるから、国が岩田に対し本件土地につき抵当権設定を許容した何等かの法律関係について主張立証のない本件においては、岩田の右抵当権設定行為は無効であり、控訴人の右主張もまた採用できない。

五、控訴人は、国が本件土地につき買収による所有権移転登記を受けていないので所有権移転登記を受けている控訴人に対し本件土地の所有権取得を対抗し得ないと主張する。成程、前記の如く控訴人は本件土地につき競落許可決定による所有権移転登記を受けたものであるが、競売手続の基本たる抵当権が前記認定の如く無効の抵当権設定行為によるものであるから控訴人は競落によって本件土地所有権を取得するいわれはない。したがって、控訴人は買収によって適法に本件土地所有権を取得した国および農地法第六八条により国から本件土地の使用を許された被控訴人に対し、登記の欠〓を主張し得る正当なる第三者とはいえないので控訴人の右主張は採用できない。

よって控訴人の本訴請求を棄却した原判決(第一審判決)は相当であって本件控訴は理由がないものとして棄却する…以下省略…。

(裁判長裁判官 丹生義孝 裁判官 原田一隆 木本楢雄)

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